大分県木材会館コンペ 提出案  2015.11.

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様式2 大分県木材会館に対する基本的な考え方 

■社会の現状分析

 戦後植林した杉が成長し、森には使うべき良材が豊富に育ってきました。国をあげて木を使う時代です。
これは世界的な傾向ともなっています。木を生活に取り入れることは、 CO 2固定化による温暖化防止。
災害防止と国土保全。調湿効果。断熱効果。香りなどの生理的効果。心理的効果。風邪やけがの防止。
など良いことがたくさんです。

しかし、都市に木造の中大規模の建物を建設するには、まだ課題も多あります。制度だけの問題ではなく、
産業の構造や道路事情、認証木材やウッド・マイレージの考え方など課題を官民一体になってクリアしなけ
ればなりません。「木は育った。社会の環境整備はこれからである。」というのが現状です。

 「昭和」「20世紀」。日本は成長し、暮らしは便利になりました。大量に生産し、大量に消費する。高密度
で溢れるばかりの情報さえも消費する。 21 世紀になった今、私たちは幸せになったのでしょうか?
今、動いているシステムが正しくないと感じても、それを少し変えることがどれだけ大変か、私たちは痛感し
ています。

 一方で地球環境は有限です。化石燃料の乏しいわが国が誇れる資源のひとつが木材です。そのことに
注目され始めています。持続可能な循環型社会の最も身近なものの一つが木材であると言えます。
木を伐る。木を使う。

木を植える。この循環が大切なのは言うまでもありません。これは、なにより地球に優しい。木を見直す。
このことを通じて、いろいろな事柄を考え直すことができます。そこにあるデザインを見直しましょう。

 

■これからの木材会館のあり方

デザインとは、想像力を頼りに「今、ここ」にある良い部分の側面に光をあて伝える手段です。
今こそ、想像力が重要な時代です。『森と街を繋ぐ』ためのデザイン。そこから、今、本当に大切なことが見
つかるはずです。大分の木材会館は、そんなサイトになるべきだと考えます。

40年の間に壊れてしまったものがあるとすれば、それを立て直すには50年もしくは100年かかるかも
しれない。それでも次世代に伝えたい本当に大切なものは、諦めずに焦らずに動き始めること、そして、
続けることで伝え残したいと思います。総力をあげれば復興できることを我々は知っています。

今回の敷地は、木材市場や製品倉庫と同一敷地です。これを生かし、木にまつわる情報発信の場とし、
木のすばらしさや木を使うことの社会的意味を伝える場に作り替えるチャンスです。法整備と同時進行の
今、注目の CLT などを使い、建設に着手することのひとつの意味だと考えます。

都市木造や木材が「繋ぐ」ことができるものは、たくさんあります。

『森と街を繋ぐ』。持続可能な木材産業の「担い手育成の場」としての機能に期待します。「木育」「火育」
や、里山づくり。地域づくり。デザイン教育などを通じて、木材の流通に関わる複雑さの解消や持続可能な
姿を考えることです。必要な林道整備の提案方法などにも、踏み込んで考えます。

『環境と人を繋ぐ』。アース・コンシャスな活動の場とし、木を使うことの良さを伝えます。市民を巻き込んで
の植林や、山→川→海のつながりを見直しなど、地場の農業・漁業などとの連携も考えられます。

『技術を繋ぐ』。大分は戸建て木造住宅の多い地域です。優秀な大工さんも多いです。技を競い美しい柱
の加工もできます。職人技術も次世代に繋げたいもののひとつです。

『政策と産業を繋ぐ』。当初の運営などに場合によっては、行政の補助などを活用する必要があるかもしれ
ません。情報をつかみ使うべきものは使い、補助金に頼らず自立した産業構造の方向性を見つけなければ
なりません。

『木の川上と川下を繋ぐ』。製材や家具などの木の製品を売るまでを「見える化」し、生産者と消費者を繋ぐ
ことも大切です。農業ほど簡単ではないでしょうが、理想の姿のひとつです。身近な雑貨販売などで、木の
コミュニケーションと運営の収益確保も考えます。

新しい大分県木材会館は、持続可能な産業の在り方をつくるための「木にまつわるコミュニケーションの場」
として機能することが、もっとも大切だと考えます。今の構造を少し変えることは、多くの困難を伴いますが、
木材にまつわるものが、いろいろな関係性を繋ぐことができれば、時代の大きなパラダイム・チェンジのため
のブレイク・スルーを起こす場所になる可能性があります。

 

■持続可能な循環型社会のために

 前述したようにソフト面でも多くの可能性のある木材利用ですが、木材は他材料と比べるとライフサイクル
炭素放出量が極小な材料です。建物自体もゼロ・エミッションを目指します。ハード面で資源やエネルギー
のことを考えると、木材利用のメリットにさらに説得力が増します。これは維持管理費に減少につながります。
ハードとソフトが一体となった、持続可能な循環型社会の提案です。

これらのあるべき姿を俯瞰したビジョンを持ち活動を続けていくためには、木材会館事務所と連携し活動する
団体事務所局の必要性が出てきます。建物を造るだけでなく、その後の運営や情報発信を開かれたものと
していくことが大事です。産業・官庁・大学・民間と消費者やクリエイターなどを繋ぐ、6次化サービスの生まれ
る場所とします。大分県木材会館がこのように機能すれば、大分県は木材利用のトップランナーになれると思
います。

このように機能する大分県木材会館をつくることが、今回の設計にあたる基本姿勢とします。

様式5 大分県木材会館設計業務の実施方法   

■業務を委託した場合の統括責任者としての業務の取り組み体制 

 私たちは、10年以上大分で建築の設計を中心に各種デザイン・まちづくりなどに関わってきました。
当初の仕事は木造戸建て住宅が中心で、木の産地を訪ねたり、施主や地元の大工さんをまじえて一緒に
木の建築を学んだりしました。近年は1000uを超える福祉施設の新築、2000uを超える旅館の竹を使
った全面改修のプロディース設計、3000uを超える地域企業の新築や「観光まちづくり」のため地域行政
・大学との協働し「まちづくり運営組織」の検討など、多くの仕事の機会をいただいています。
また今年は、いろいろな木を鉄などと組み合わせた家具や雑貨を提供するブランドの共同代表としての活
動も始めました。次年度には、「けんちくカフェ」の営業も事業決定しました。これは、建築にまつわる書籍や
住まいのアートのギャラリー・カフェです。廃校利用も協議中です。地方での衣・食・住のデザイン提案です。
また、ときおり海外の建築家紹介サイトから掲載依頼をいただきます。地道な活動を、地球の裏側から評価
されることは嬉しく、励みになります。

 さて、今回の大分県木材会館ですが、日ごろの活動の価値観の延長線上にある「大切なことを伝えるた
めの仕事」だととらえています。次の世代のことを考える年齢になり、繋げるべき大切なもののことを考えま
す。関係者の方々と協働して柔軟に取り組みます。

 

■設計チームの特徴

 なぜ今、木造なのか?確かな技術的な情報が欲しくて参加した過去のセミナーなどの御縁から、防耐火
・構造を県外の経験豊富な人材と設計チームを組みことができました。法整備との同時進行ですので、多く
の情報収集と広い視野が必要です。最新の情報の入手と都市木造への深い考察や、地方での(中央との)
技術的ボーダレス化を実現します。今回は、全館避難安全検証が設計の要です。このチームでは、設計時
に実験が必要になった場合でも、構造及び防火の実験も実施できます。

 

■ソフトの提案

今注目のCLTを用いるということで、都市木造に対する先進事例のひとつとなります。法整備と同時進行な
ので、建設のための「大分県木材会館建設実行委員会」を組織します。必要な検証や実験も行います。

 敷地全体を木材の流通が見える広場と見立て、中心に無花粉杉の苗を植えます。数十年先まで続くプロ
ジェクトの開始です。木の時間と人の記憶を繋ぐ試みです。枝打ち、間伐、伐採や製材作業の体験や見学が
できます。「木育」「火育」などの場を、設計と同時進行し、ワークショップでつくる「焼杉板」を、実際に施工し
ます。木のすばらしさや、弱点やバラつきによる個性も学びます。建設のための実行委員会は、完成後は、
情報発信などの団体へと進化します。県木材会館事務所と連携し、森林ツアーや身近な木の雑貨を販売す
るカフェを経営し、運営のための収益を生みます。広場に面した貸事務所・店舗スペースには、これらを提案
します。木にまつわるコミュニケーションの場です。広義での「ものづくり」や「教育」で多世代を繋ぎ、木を通
しての持続可能な循環型社会の提案をします。テーマをはっきりさせることでホールや会議室の利用にビジ
ョンが見えてきます。

 

■ハードの提案

敷地に隣接する製品倉庫や木材市場を一体的にとらえ、まとまった広場を最大限に使える配置計画とします。

日本で都市木造を考えるうえで無視できないのは、「木を見たい」「触れたい」という日本人感覚に対して、
「適所で木を見せること」です。年間を通して紫外線・降雨量ともに多い国ですので、外部での使用には配慮
が必要です。視覚的に有効な軒天や外部建具などを木製とします。足場を設置せずにメンテナンスできる場
所にも、製材の板張りも採用します。メンテナンスの必要性とその楽しさを伝えるため再塗装体験のワークシ
ョップを開くのも良いでしょう。また、平屋部分の貸店舗・事務所の外壁には焼杉を採用します。

 内部は、防火性・安全性に配慮しながらも、ふんだんに木を見せます。全館避難安全性の検証をして、内装
制限を適所で緩和します。これはスプリンクラー設備に頼らず、構造のCLTを見せられる部分が増えますので、
建設費・維持費の軽減ができます。また、香りなどの心的効果の恩恵も受けます。

 かつて建物は全てゼロ・エミッションでした。古来この国でも縁側や土間という中間領域で、豊かな自然の恩
恵を楽しんでいました。南側の深い軒や蓄熱する床を取り入れ、古くて新しいチャレンジの場とします。これは、
ランニングコストの低減につながりますし、なにより地球に優しい建物です。現実的には、パッシブ・ソーラー+ソ
ーラーパネルでゼロに近いロー・エミッション建築となるでしょう。気密工事の地域研修などに用いることで、近い
将来の目標のひとつであるゼロ・エミッション建物の普及にも貢献します。吹抜け空間の上下温度差の低減とラ
ンニングコストの低減ができます。このことが環境負荷の少ない木材利用の説得力を高めます。

 

■目標とする姿

先ずは、持続可能な循環型社会に貢献できる都市木造建築の先進事例を大分でつくることです。そして、この
ような建物を造るだけでなく、広場と一体となり人々が集い、継続的な活動を楽しく続けられる場所とすることで
す。これにより、大分県を木材利用環境のトップランナーにすることを大きな目標とします。